(本文より)
ぼくは40歳を過ぎてからこの小さな街に小さな本屋を作った。
誰に笑われてもかまわなかった。
それはぼくの人生で、生きることのすべてだったのだから。
これはぼくの、ぼくだけにしか体験し得なかった物語だ。
そしてその物語はいまもなお続いている。
この現在進行中の物語を読んでいると、不思議なことに自分の人生を振り返ることになる。
自分自身のことは自分が一番よくわかっているようで、そう思っているうちは実は何もわかっていないものだ。自分の世界だけに閉じこもっているということだから。
そういった時に支えになるのが本という存在で、本を開くと、書いた人の世界が開かれる。
他人が悩み、考え、行動したことを読むことで、自分の中に他人が生まれる。自分の中に他人が生まれることで、ようやく自分というものが少し客観的に見ることができるようになる。
視野が広がる。それは世界が広がるということだ。
盛岡『BOOK NERD』の店主・早坂さんは、読者に「きみ」と語りかける。それは若き日の自分自身に語りかけているようにも思える。書くこともまた、自分自身を客観的に捉える一つの術なのだろう。
だから早坂さんの声は、自分の中にある違和感や「好き」という気持ちの在り処を照らしてくれる、あたたかさを持っている。
自分の人生を自分でつくりながら生きたいと思う、すべての人へ。
書き下ろしのブックレビュー「ぼくの50冊」も所収。