時代を超える慟哭と情熱
日本と韓国――二つの「母国」の間で揺れ惑う個人の苦悩と葛藤を文学に昇華した作家が未来に託した小説とエッセイ。没後30年記念出版!
[目次]
Ⅰ 小説
由煕
刻
石の聲
除籍謄本
Ⅱ エッセイ
言葉の杖を求めて
木蓮によせて
私にとっての母国と日本
解説 切実な世界性を帯びた李良枝の文学 温又柔
李良枝 年譜
初出一覧
[著者略歴]
李良枝(イ・ヤンジ)
作家。1955年3月15日、山梨県南都留郡西桂町に生まれる。父親は40年に済州島から日本へ渡ってきた。64年、9歳の時に帰化し、田中淑枝が本名となる。高校生の時に日本舞踊と琴を習う。75年、早稲田大学社会科学部に入学、この頃から韓国語を学習し、伽倻琴と韓国舞踊を習い始める。早稲田大学を中退した後、荒川区のサンダル工場で働く。80年、初めてソウルに行き、巫俗舞踊を見て衝撃を受け、習い始める。81年、ソウル大学国語国文科入学。ソウルで知り合った中上健次に小説を書くことを勧められ、82年、「ナビ・タリョン」を『群像』に発表、芥川賞候補に。84年、「刻」を『群像』に発表、芥川賞候補。88年、ソウル大学を卒業。89年、「由熙」で芥川賞受賞。同年3月、梨花女子大学舞踊学科大学院修士課程入学。91年、大学に通いながら「石の聲」の執筆を始める。92年、日本へ戻り「石の聲」の執筆に専念する。5月22日、急性心筋炎のため死去。享年37。2000年、山梨県立文学館の常設展示室に李良枝コーナーが設置される。著書『由熙/ナビ・タリョン』(講談社文芸文庫)、『ことばの杖 李良枝エッセイ集』(新泉社)など。小説は韓国語、ドイツ語、中国語(繁体字)でも翻訳刊行され、英語版も2022年12月に刊行予定。
[選者略歴]
温又柔(おん・ゆうじゅう)
作家。1980年、台湾・台北市に生まれる。3歳の時に家族と東京に移住し、台湾語混じりの中国語を話す両親のもとで育つ。2006年、法政大学大学院・国際文化専攻修士課程修了。李良枝の文学と出会い本格的に作家を志す。09年「好去好来歌」ですばる文学賞佳作を受賞しデビュー。11年『来福の家』(集英社、のち白水Uブックス)を刊行。16年『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社)で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。17年『真ん中の子どもたち』(集英社)、18年『空港時光』(河出書房新社)、19年『「国語」から旅立って』(新曜社)、20年『私とあなたのあいだ——いま、この国で生きるということ』(木村友祐との共著、明石書店)を刊行、『魯肉飯のさえずり』(中央公論新社)で織田作之助賞受賞。