閉塞の日本を飛び出して小説家が旅をする。天の音を聞き、見届けるために。
圧倒的な1007行。現代日本最大の小説家、初めての詩作品。
小説家・古川日出男が空白に挑戦した。空白とは、詩。COVID-19状況の閉ざされた日々を脱出し、カリフォルニアへ、イタリアへ。「さあ、歌ってゆこう」の掛け声とともに始まる1007行は、驚くべき滞空の試みとなった。著者初の本格的な詩作品は、天の音を聴きとりつつ歴史と惑星をさまよう。「天には半島があって/天には大陸があって/天には孤島もあって/その孤島の岬には いろいろな生き物が訪れる/倍音は訪れる?」ダンテがウェルギリウスにみちびかれたように、宮沢賢治と吉増剛造の詩魂にみちびかれて、作家にまったく新しい創造のフェーズが訪れた。必読の書き下ろし長篇詩。
誰よりも大きな構想力で国家批判としての小説を書きつづけてきた作家・古川日出男が、まるで国家と国語の歴史を問い直すかのような苛烈さをもって、詩に立ち向かう。生まれたのは驚異の書き下ろし長篇詩。小説家の旅の空間に、現代世界が明滅し、創世の時が反響する。天音とはいったい何なのか。「わたしはたぶん日本人であるとはどういうことかを考えた。わたしは神のことはわからないけれども感じる、この漢字を宛てないカミであれば相当感じる。わたしは日本人というよりも、そういうものを感じる〈精神〉なのだと思う。そういう精神として、この日本列島に自生した、野生した、もしかしたら土着した。福島県郡山市にだ。そして、この精神(古川日出男に宿る/古川日出男である意識)が、パンデミック時代の世界を移動した。」移動したのはカリフォルニア、イタリア、そして空。この稀な詩的事件を、ぜひ体験してください。
著者
古川日出男(ふるかわ・ひでお)
1966年福島県生まれ。1998年、長篇小説『13』で小説家としてデビュー。以降、掌篇から巨篇まで様々なスケールの小説を書き続けながら戯曲や評論、ノンフィクション作品も発表。また朗読を軸に他分野の表現者とのコラボレーションによる創作の機会も多く、2011年の東日本大震災を切っ掛けに始動した朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を継続的に行なうなど、執筆にとどまらない縦横無尽な文学表現に取り組む。本作が初めての詩作品となる。
公式WEBサイト「古川日出男のむかしとミライ」
https://furukawahideo.com
四六判変型ペーパーバック装 144頁
装幀:戸塚泰雄
装画 近藤恵介(絵)+古川日出男(写真)