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オリバー・サックス、P・レーヴィほか絶賛
ナチス支配を生き延びた写真家の真実の物語
ポーランドでの平穏な子供時代から、死と隣り合わせのナチス支配下の日々、悲喜こもごもの戦後までを描く短篇集。
第二次世界大戦が始まり、ナチスドイツ支配が強まる中で、ユダヤ人として六つの強制収容所を生き抜き、戦後は写真家として活躍した著者は、本書でユダヤ人と同じくらい、非ユダヤ人とホロコーストの関係に光をあてる。ホロコーストがテーマではあるが、その中で描かれる人間模様は色彩豊かで、軽やかな人間への希望に貫かれている。
「過酷な状況が日々続く中で人間としてのまっとうさを失わずに生き抜いたことを淡々と――だが状況の中に物語を見てとる才覚は遺憾なく発揮して――書いている著者に深い敬意を抱いた」(柴田元幸「訳者まえがき」より)をはじめ、「驚くべき、重要な、きわめて素晴らしい珠玉の物語」(オリヴァー・サックス)、「考えさせられる本を書いてくれてありがとう」(プリーモ・レーヴィ)、「記憶をめぐる文学の重要な一冊」(エリ・ヴィーゼル)など高い評価を受け、PEN/マーサ・アルブランド賞(ノンフィクション部門)、クリストファー賞受賞の栄誉に輝いている。
[目次]
まえがき ハワード・ゴットフリード
はじめに バーナード・ゴットフリード
訳者まえがき 柴田元幸
テーブル泥棒
サーカスが町にやってくる
吃る人
音楽の先生
結婚写真
バイオリン
デビュー
万年筆
Gさん
マーシャ
祝祭日の鶏
アレクサンドラ
クルト
ヘルムート・ライナー
最後の朝
アントンが飛ばした鳩
罪の意識
三つの卵
死刑執行
兄の友人
ハンス・ビュルガー#15252
最後の収容所
リンツの出会い
再会
インゲ
ついにアメリカへ
昔の友だち
少年時代の足跡をたどって
雨の夜に
記憶について
訳者あとがき 広岡杏子
バーナード・ゴットフリード Bernard Gotfryd
1924年ポーランドのラドムでユダヤ人家庭に生まれる。第二次世界大戦中、ナチスが利用する写真館で働いていたことで初期の強制収容所への移送を免れる。その間、ポーランド統治に関わるドイツ軍関係者の残虐行為などを収めた写真を余分に現像し、ポーランド地下活動組織に渡していた。その後六つの強制収容所を生き抜き、1945年5月にグーゼンⅡで解放される。解放から二年後にアメリカへ移住、1957年からニューズウィーク誌のカメラマンとして活躍する。長いあいだ自身の経験を語ることはなかったが、1990年代、戦前・戦中・戦後の体験を20篇の物語で綴った『アントンが飛ばした鳩』を発表し、大きな反響を呼ぶ。本書はこれに新たに10篇を書き加えた増補版で、2000年にジョンズ・ホプキンズ大学出版局から出版された。ホロコーストを伝えるため主にニューヨーク近郊の高校で講演活動も精力的に行った。2016年6月ニューヨークで死去。