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21世紀に入って、ファッションビジネスのサイクルはますます加速しています。その原因のひとつに、ファストファッションと呼ばれるビジネスのありかたが挙げられるでしょう。最近ではSHEINというブランドの生産背景が問題含みであることが一般のニュースでも取り上げられたりしていますが、これはなにもSHEINにかぎった話ではなく、さまざまなファストファッションのブランドに対してずっと指摘されてきたことです。
ファッション業界においては、エコファッションやエシカルファッション、あるいはサステナブルファッションといったさまざまな呼び名のもと、環境への配慮や生産者の労働環境の向上、あるいは動物愛護などの観点の必要性が謳われてきました。しかしながら、新しさへの欲望を喚起するビジネスモデルが変わらない限り、根本的な解決にはならないようにも思われます。
一方、環境や労働の問題のみならず、文化の盗用やルッキズムといった文化的な問題についてもさまざまな形で議論が起こっています。これらは比較的新しく議論され始めた主題であり、その定義や線引きなど、十分に共通理解が得られているとは言えません。一足飛びに法整備をするようなことはおそらく難しいと思われますが、一定のルールやガイドラインを共有することは必要かもしれません。そこで、今号は「倫理」をテーマとすることによって、これらの問題を考えるためのきっかけを提供できればと考えています。
今号は、日本のファッションブランドとして初めて「B Corp認証」を取得したCFCLのデザイナー・高橋悠介氏へのインタビュー、ファッション誌の編集者を出自としながらファッションロー専門の弁護士として活動する海老澤美幸氏のインタビュー、整形やドーピングといったいわゆるエンハンスメントについての研究を行っている倫理学者の佐藤岳詩氏のインタビュー、ファッション論と技術哲学の接点を探る水上拓哉氏の論文、環境としての皮膚という観点からこれまでもファッション論で語られてきた皮膚論を更新する加戸友佳子氏の論文、アルトゥーロ・エスコバルを手がかりにバイオファッションの現状を整理する小野里琢久氏の研究ノート、「地域文化商社」という新たなカテゴリーを創出・実践している白水高広氏のエッセイ、デザイナーのルーツと作品を結びつけることに対する問題提起を行う赤阪辰太郎氏のウェールズ・ボナー論に加え、ファッションと倫理の問題をさまざまな観点から考えることのできる書籍紹介・展覧会紹介を掲載しています。それに加えて、齋木優城氏、工藤源也氏、角田千尋氏による公募の論文と批評も特集テーマに呼応しています。
これまでの号と同様、特集テーマに対しての間接的なアプローチに見えるかもしれませんが、そこかしこに「倫理」について考える種が散りばめられているはずです。
(introductionより)
interview
高橋悠介(CFCL)
海老澤美幸
佐藤岳詩
paper
水上拓哉「なぜファッション研究において技術哲学が重要なのか」
加戸友佳子「傷ついた皮膚でファッションを語るために――『皮膚-環境』試論
小野里琢久[ 研究ノート]「バイオデザインにおける自然観試論―― 実践スケールと多種存在への着目」
齋木優城「そこに描かれるのは『子どもらしい』少女たちか?―― Romantic ChildからKnowing Childへ」
international perspective
展覧会紹介
Broken Nature(壊れた自然)
Beyond Measure: Fashion and the Plus-Size* Woman(ビヨンド・メジャー:ファッションとプラスサイズの女性)
Fashioned from Nature(ファッション・フロム・ザ・ネイチャー)
The Fabric of Cultures: a Celebration of Black Style, Artistry, and Innovation(ファブリック・カルチャー:ブラック・スタイルとその芸術性、あるいは革新への祝祭)
書籍紹介
Designing Fashion’ s Future: Present Practice and Tactics for Sustainable Change(ファッションの未来をデザインする: 持続可能な変革のための実践と戦術)
Designs for the Pluriverse: Radical Interdependence, Autonomy, and the Making of Worlds(多元世界のためのデザイン:存在論的展開、自律性、世界の共創)
Clothing Poverty: The Hidden World of Fast Fashion and Second-Hand Clothes(衣類の経済学)
Fat Fashion: The Thin Ideal and the Segregation of Plus-Size Bodies(ファット・ファッション:瘦身理想とプラスサイズボディ差別)
critical essay
白水高広「地域文化としての服」
赤阪辰太郎「ウェールズ・ボナーという名のファッション・ハウス」
工藤源也「松浦武四郎のヴィンテージ・ファッション――好古、ヴィンテージ趣味と『正統性』の/による構築」
角田千尋「YUIMA NAKAZATOを着ること――これからの衣服の在り方を考える」
afterword
責任編集 蘆田裕史+水野大二郎
編集 鈴木彩希
編集・DTP 太田知也
アートディレクション、デザイン UMA/design farm
表紙図版提供 CFCL
四六判変型、184ページ