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詩集か、エッセイか、あるいは小説か――。円熟の域に達したラヒリの文学的冒険にみちた最新作。
ローマの家具付きアパートの書き物机から、「ネリーナ」と署名のある詩の草稿が見つかった。インドとイギリスで幼少期を過ごし、イタリアとアメリカを行き来して暮らしていたらしい、この母・妻・娘の三役を担う女性は、ラヒリ自身にとてもよく似ていた。――イタリア語による詩とその解題からなる、もっとも自伝的な最新作。
目次
はじめに
伝記のための仮説
本文についての断り書き
窓辺
白くひんやりした窓辺に
思い出すこと
失くしもの/階段を下りる/人知れずわたしを愛してくれる人と/外股で足をひきずっている/数日前に手術を終えて/アルベルト・デ・ラセルダに/どうしていまになっても/マッツィーニ通りの/嵐の夜ベッドにいるとき/工事の足場のないサン・フランチェスコ・ア・リーパ通りは/屋根裏部屋に/ナポリで新聞を探しながら/三足の靴/手の指を使った数え方で
語義
《Aiuole》花壇/《Ambito》区画・切望された/《Anafora》語頭反復/《Follia》狂気/《Da noi》わたしたちのところで/《Forsennato》狂乱の/《Incubo》悪夢/《Innesto》接合/《Invidia》妬み/《Lascito》遺贈/《Obiettivo》目標/《Obrizo》純粋な/《Pennacchio》房/《Perche ‘P’iace》好きな理由/《Quadratura del cerchio》円積問題/《Rendersi conto》気づく/《Rimpianto》悔恨/《Rovistare》探しまわる/《Sbancare》破産させる/《Sbolognare》厄介払いする/《Scapicollarsi》懸命になる/《Scartabellare》ざっと目を通す/《Sgamare》推察する/《Sorprendente》驚くべき/《Squadernare》明示する/《Sbucare》飛び出す/《Svarione》誤字/《Ubbia》迷信
忘却
《想い出》
世代
母がベンガル語の詩を書いていたノートは/きのう母にプレゼントした寝間着/人のからだはたやすくあっさりと/物語の舞台をコルカタの/今夜強い雨音を聞きながら/オクタヴィオ、おまえは/入院している叔父/ここでもノオルの/あの日の電話での/《Aに》/オクタヴィオから贈られたキッチン・クロス/かつてわたしたちの家では/公現祭の日、ローマでは/澄みきった水の中/芸術家だった叔父が
遍歴
どうしても知りたかった/(見たことのない)東海岸沿いを/子どものころの駅にもどり/機内で目を引いた/ボルゴ・ピンティは/ヴェネツィア婦人/ルッツァーティ通り八番地で/わたしはなにをしただろう?/世界一低い場所、死海で/赤く果てしない/昔は空港で胸が躍った/低い放物線を描くイギリスの風景/六歳の息子を/ラヴェンナのホテル/病院はあなたの後ろにあった/ローマを離れるのは
考察
バリスタには言わないが/十一月の終わりは/眠っているとき手を挙げたら/映画館に入る前に/どの行も途切れ途切れで/恍惚とするもの/わたしの世話をするだけで/もちろんわたしもいつかは/今朝の川は/闇さえもじっとしていない/やっかいな仕事/年末の空は真珠層/冬の朝/一瞬のうちに/わたしが出発する日なので
注
訳者あとがき
ジュンパ・ラヒリ Lahiri,Jhumpa
1967年、ロンドン生まれ。両親ともコルカタ出身のベンガル人。2歳で渡米。コロンビア大学、ボストン大学大学院を経て、1999年「病気の通訳」でO・ヘンリー賞、同作収録の『停電の夜に』でピュリツァー賞、PEN/ヘミングウェイ賞、ニューヨーカー新人賞ほか受賞。2003年、長篇小説『その名にちなんで』発表。2008年刊行の『見知らぬ場所』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2013年、長篇小説『低地』を発表。家族とともにローマに移住し、イタリア語での創作を開始。2015年、エッセイ『ベつの言葉で』、2018年、長篇小説『わたしのいるところ』を発表。2022年からコロンビア大学で教鞭を執る。