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「アートの有用性」を独自に研究してきたロジャー・マクドナルドが解き明かす、
革新的な表現を生んだアーティストたちが実践した「深い観察」の知られざる力
「BE ACID. ACIDをTAKEせず、あなた自身がACIDであれ」──坂口恭平
「創造性を決して失わずに論理的にアートを読み解く底力、日常にそれを自由に還元する方法が丁寧に描かれている、すばらしい本。」──吉本ばなな
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近年、「アートの力」を活用して新たな機会創出をはかろうとする動きが強まっている。
アートの可能性を広げようと長年取り組んできた筆者のNPOのもとにも、
どのようにアートを取り入れるべきか、相談に訪れる人が年々増えている。
しかし、そうした相談を受けて私たちが「アートならではのメソッド」を提示することはない。
むしろ、メソッドとは対極にある肉体回帰的なアプローチこそなくてはならないと、声を大にして訴えている。
そしてそのヒントが、深い観察(ディープ・ルッキング)の実践にはあるのではないかと、筆者は考えている。
実際、セザンヌやピカソといった偉大なアーティストたちはみな、
より力強いクリエイティビティを発揮する意識状態へと自らを変化させるために、
深い観察(ディープ・ルッキング)を日常的に実践していた。
この意識状態において注目すべきは、平時の凝り固まった思考から解放され、
自由にクリエイティブに思考できるということだ。
いまの社会はかつてないスピードで変化しており、古い観念に囚われたままでは、やがて現実に対応できなくなっていく。
ディープ・ルッキングによってもたらされる非日常的な意識状態には、これを解きほぐし、
社会や世界をもう一度、ニュートラルな目で見ることを可能にする作用がある。
今日、世界は一日先の未来もわからないほどに、日に日に不安定さを増している。
にもかかわらず、生きている時間の大半を電子機器に支配され、注意を奪われ続け、
なにかをじっと深く観察することが難しくなってしまっているいまだからこそ、アーティストたちにならい、
「アートを観察する」という時間を意図的に設けることが、いまの私たちには必要なのではないだろうか。
本書では、筆者が長年独自に行なってきた研究をもとに、深い観察(ディープ・ルッキング)の歴史的背景とその実践について、具体的な事例も交えながら紹介していく。
最終章では、私たちが直面する喫緊の問題として気候危機を取り上げ、深い観察の実践を通して世界的な問題に取り組むヒントを考えていく。
アート好きはもちろん、この危機的な時代にどうやって社会を良くしていくことができるか、考えようとしている人にもきっと役立つ内容になっていると信じている。
本書が、不安定な時代の中で生きる読者が新たな地平を切り拓く一助となることを願っている。
<目次>
序章 なぜいま「観察」なのか──再発見される肉体回帰のアプローチ
第1章 見ているようで、見ていない──私たちはいかにして観察力を失ったか
第2章 革新を生んだ観察者たち──6人のアーティストに見る深い観察の物語
第3章 深い観察のためのプロトコル──現代によみがえる秘密結社の流儀
第4章 練習してみよう!──紙上からはじめるディープ・ルッキング
第5章 「適応」のための観察──危機の時代を生き抜くために
AIT Press