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庭という小さな場所で見る、植物と人の重なり
片岡俊は、「自然」と「人」の関わり合いに着目した写真作品を制作しています。初の写真集『Life Works』は2010年の作品制作の始まりから現在に至るまで、ひとつの庭を舞台に撮影したシリーズになります。
半世紀以上にわたりその庭で、野菜や植物を育て、草をむしり水を撒いてきた祖父の営み。しかしその年齢が80歳に差し掛かる頃、変化が訪れます。鬱蒼と育っては枯れるを繰り返す、自生する植物の存在 ──。自由に育つ植物と祖父の手の二つが交差した時間が、カラーフイルムによって丹念に焼き付けられています。
地面に落ちた種子の一粒から始まり、絶え間ない変化を生む植物の密集した循環の歳月。場所に関わる人の手の跡が混じり合い、やがて人がこの世から去った後も手製の枠は残り、葉擦れの音はやむことがありません。時がもたらす変容や堆積が、片岡の「見つめ」続ける態度によって克明に刻まれていきます。
どこか懐かしい緑のバインダーを思わせる装丁にくるまれた、植物と人との共生。庭から始まる宇宙。『Life Works』は、片岡の作家としての基点を告げる一冊でもあるでしょう。
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"人が植物を求め営み共生すること。人が移り変わり場所が姿を変えること。それはこの場所に限らず幾多の場所で、数え切れないほどに存在しているのだと思える。繰り返され、めぐり流れるものに末路はないのか。庭という限りある空間を見つめることは、私たちが暮らすそのそばに連綿と続く、植物と人の重なりを知ることだった。緑に触れながら目を瞑るとき、その境界線が混ざり合う。溶け入るような命の住処に私はいる。"
── 片岡 俊『Life Works』あとがきより
"まるでカオスと思いたくなるこの庭に庶民の工夫の痕跡がいっぱいに詰まっていることも、私は無視できない。(中略)
民は自分しか使える労力はなく、道具もできるだけありあわせのもので工夫して使う。再利用と誤利用のあいだの領域で、植物たちが気持ちよさそうに根を生やし、葉を茂らせている。
持ち主が亡くなっても庭は生き続ける。よそからタネが落ちてきて、新しい植物が古株の植物集団の仲間に入る。枯れた植物はつぎの世代の養分となる。庭に幾重にも残された祖父の痕跡もまた、写真家の糧となっている。"
── 藤原辰史(京都大学准教授)「民の庭」
本書寄稿より抜粋
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Book Design:名久井直子
発行:赤々舎
Size:H250mm × W188mm
Page:100 pages
Binding:Hardcover