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ぼくは足を前に出しながら、この瞬間は二度と経験できないんだと思った。泣きたいくらい苦しいのに、それでもまたこの空間に身を置きたいと感じた――。旅を続けるのは自分の身体で世界を知りたいから。ガンジスの河口でカレーを味わい、カナダの森で松の香りをかぎ、知床の山でヒグマの足音を聞く。未知の風景を求め、そこだけに輝く一瞬を、撮って、繋げた、かけがえのない7年の記録。
目次
ウサギ狩り
エベレストの犬
手で尻を拭く
最奥の国境
ガンジスの河口にて
片目しか見えない仮面
船で越えた国境
ミイラの少女
原発前のイノシシ
最高の登山
東京低地順応
高校の写真部
ダッカとの再会
0メートルからの富士登山
完敗の山
咳き込みながら、パリ
チベットの年越し
標高8400メートルのポイ捨て
斜里の子どもたち
真夏のサハリン
ホイアン再訪
アルバータ縦断の旅
世界第二位の難峰に向けて
未知の山、K2へ
ぼくは悔しい
新潟の潟
越境カナダ
カラコルムの水晶
寄りクジラの浜
アボリジニの地図
能登の風呂屋
知床連山縦走
詩人と写真
岬の記憶
奥能登あるくみるきく
最涯てという入口
刹那の輝き
再び熱帯夜
北極圏の短い夏
ヒグマと一夜を過ごす
無人温泉
悪夢の大雪
再会のカトマンズ
島に暮らす
チェビさんと会う
ヒマラヤの仮面神
流氷のはじまりを探して
高所順応の旅
ユーコン漂流
台風の目
写真を撮ること、旅すること
あとがき
文庫版あとがき
石川直樹
イシカワ・ナオキ
1977(昭和52)年、東京生れ。写真家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008(平成20)年『NEW DIMENSION』、『POLAR』で日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞写真賞を受賞、2011年『CORONA』で土門拳賞、2020(令和2)年『EVEREST』、『まれびと』で日本写真協会賞作家賞を受賞。2008年に開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』ほか著書多数。
新潮文庫 352ページ