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『銀河鉄道の夜』起筆100年記念出版!
エスペラント語で書かれて梵字の捺されたパスポート(旅券)をこの二人は携えている。
地球人がいま銀河系人になる。
――古川日出男
宮沢賢治の〈北〉とフィンランドの〈北〉が、旅なんて可能なのか、と思える時代にあって可能な限り誠実な旅の中でしなやかにつながり、みんなの〈北〉になっていく。
――柴田元幸
『銀河鉄道の夜』起筆100年となる今年2月、朗読劇『銀河鉄道の夜』の活動を東日本大震災後から続けてきた著者は、「北」へ憧れていた賢治の魂と言葉を、最北の地であるサーミランドに連れて行く旅を決行した。真冬には零下30度にもなる北極圏だ。本書は賢治の詩想を追い求めてきた二人が、北の果てで賢治と向き合った旅の記録である。
先住民のサーミの人々が住み、「サーミランド」と呼ぶ地は、「ラップランド」のことだが、サーミ人は「ラップランド」とは決して言わない。現地の目を通して初めて見えてくる差別意識は、賢治が抱いていた劣等感をも浮かび上がらせる。二人は、サンタクロースの町ロヴァニエミから北へ向かい、フィンランド最北の村に住むサーミの詩人イマさんの自宅を訪ねた。トナカイの肉をごちそうになりながら、生活や思想、文化を直接体験し、さらにサーミの聖地である湖の上で賢治の詩を朗読し、その声を土地に響かせた。近代文明に浸かって無意識的に生きている自らに批判的な眼差しを向け、自然観を大きく揺さぶられながら、生と死、〝ほんとうの幸い〟の意味を北の果てで問い続けた旅の終わりに最大の気づきと感動が読者を待ち受けている。
『銀河鉄道の夜』を次の100年に向けて走らせる渾身の書き下ろし!
[目次]
風 篇――小島敬太
氷河鼠のフェイクファー/四号線を北に行け/陰気な郵便脚夫/星めぐりの歌/ヌオルガムの樺の木/時計の音/ロマンチックの終着駅/イナリ湖の上で/ロヴァニエミのトナカイレース
太陽 篇――管啓次郎
太陽と風の土地へ
なぜ北にむかうのか/ロヴァニエミへ/湖畔の村、イナリ/なぜかノワールなマイクロバスでウツヨキへ/雪歩き、橇遊び/となかいとは何か?/雪原を歩く賢治の霊?/夜の味噌汁対話/狩人の土地として/世界のもうひとつの頂点/ヨイクとは何か/となかいディナーへの招待/旅と追憶、追悼/さようなら、知らない犬たち/道が見つかったらそれがそれだ、迷うな、そこを行け
アントロポセンブルース――あとがきに代えて 小島敬太
ぼく、ザウエルは――あとがきに代えて 管啓次郎
[著者略歴]
管 啓次郎(すが・けいじろう)
1958年生まれ。詩人、比較文学研究者。明治大学理工学部および同大学院〈総合芸術系〉教授。2011年から、古川日出男・柴田元幸・小島ケイタニーラブとともに朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を始める。2022年、同朗読劇が宮沢賢治賞奨励賞を受賞。
2011年、『斜線の旅』で読売文学賞受賞。著書は他に『コロンブスの犬』『コヨーテ読書』『オムニフォン』『本は読めないものだから心配するな』『ストレンジオグラフィ』『エレメンタル 批評文集』『本と貝殻』『ヘテロトピア集』など。詩集に『Agend'Ars』『数と夕方』『犬探し/犬のパピルス』『PARADISE TEMPLE』『一週間、その他の小さな旅』など。訳書に、ル・クレジオ『ラガ 見えない大陸への接近』、サン₌テグジュペリ『星の王子さま』、エドゥアール・グリッサン『第四世紀』など多数。
小島 敬太(こじま・けいた)
1980年生まれ。音楽家・作家・翻訳家。早稲田大学第一文学部卒業。シンガーソングライター「小島ケイタニーラブ」として、NHKみんなのうた「毛布の日」などを制作。2011年から古川日出男・柴田元幸・管啓次郎とともに朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を始め、出演および音楽監督を務める。2022年、同朗読劇が宮沢賢治賞奨励賞を受賞。
著書に『こちら、苦手レスキューQQQ!』(絵・木下ようすけ)、共著に『花冠日乗』など。訳書に『中国・アメリカ 謎SF』(柴田元幸との共編訳)、中国の児童文学『紫禁城の秘密のともだち』シリーズ(作・常怡、絵・おきたもも)がある。
東京新聞・中日新聞の書評コーナー〈海外文学の森へ〉、K-MIX(静岡エフエム)のラジオ番組〈魔法の国の児童文学〉を担当。
(出版社HPより)
四六判 270ページ
白水社