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一見まじめな佇まいですが、ページをめくるとめくるめく極上の言葉の世界が広がります。
たとえば「月」の解説は、“移ろいゆくあらゆる姿が「きれいだ」という言葉で語られる唯一無二の存在。”
たとえば「口」の解説は、“人間のもっともよこしまな身体。”
というように、詩心と遊び心と詩人キム・ソヨンが生きてきたさまざまな時間や経験が一文字に溶け込んでいます。「月」や「口」に自分だったらどんな解説をつけるだろう?と思うし、キム・ソヨンの解説によってのっぺりしていた「月」や「口」が生き生きとした姿に見えてくる。その文字についてどう思うかは、その人がこれまでどう生きてきたかが表れる。
「終」の解説はシンボルスカの詩「終わりと始まり」が丸々引用される。この豊かさ。一文字に込められた細やかな力に気づいたら、文章を読むのも書くのも今までとは別の世界が広がると思います。言葉を味わう楽しさに満ち満ちた一冊。超オススメです。
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人は誰も自分だけの人生という言葉の辞典を持つ
詩人キム・ソヨンがハングル一文字の言葉を通して人生のさまざまな時間、情景、感情を描いた、私的で詩的な一文字の辞典
「読んだ人がニヤッと笑ってくれたら嬉しいなと思っていた。うなずきながらページの余白に自分なりのまた別のニュアンスを書き込んでくれたらいいなとも思っていた。そうして私が書き記した定義と、読者の手書きの定義が同じページに一緒に並んでいたら素敵だなと思っていた。
つまり、私の『一文字辞典』は読者が参加することによってはじめて完全な辞典となる。私と未知のあなた、私たち二人でこの本を完成させるのだ」
――「はじめに―日本の読者に向けて」より
【目次】
はじめに―日本の読者に向けて
ㄱ 犬になりたい
ㄴ 「おまえ」の集合体
ㄷ ほんの一瞬たりとも
ㄹ 丸を意味する言葉
ㅁ 遠くにあるから
ㅂ 半分だけ考えて、半分だけ話す
ㅅ 新年最初の日
ㅇ 意外なところ
ㅈ さよなら
ㅊ 私の窓たち
ㅋ 鼻の奥がつんとする
ㅌ 押す時ではなく引く時
ㅍ 腕を広げると
ㅎ 回復できるので
監訳者あとがき―私の一文字は「 」。
【プロフィール】
著者:キム・ソヨン
詩人。誰も私に詩を書いてみたらなんて言わなかったから、詩を書く人間になった。
詩集に『極まる』『数学者の朝』、エッセイ集に『心の辞典』などがある。これまでに露雀洪思容文学賞、現代文学賞、李陸史詩文学賞、現代詩作品賞などを受賞。
アンソロジー詩集『地球にステイ!』にも作品が掲載されているが、単著は本作が初の邦訳となる。
監訳者:姜信子
作家。横浜生まれ。路傍の声に耳傾けて読む書く歌う旅をする日々。
著書に、『棄郷ノート』(作品社)、『はじまれ、ふたたび』(新泉社)など多数。訳書に『たそがれ』(黄晳暎著、趙倫子との共訳、CUON)等がある。
翻訳:一文字辞典翻訳委員会
李和静、佐藤里愛、申樹浩、田畑智子、
永妻由香里、バーチ美和、邊昌世、松原佳澄
ページ:288ページ
版型:四六判 製本:並製