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1992年から2020年まで28年間に発表されたエッセイより86編を精選。『夜のある町で』『忘れられる過去』『世に出ないことば』『黙読の山』からの諸編に加え、同時期の名編と単行本未収録の追悼「加藤典洋さんの文章」など近作8編を収める。ことばと世間、文学と社会、出版と時世に、目を凝らし耳を澄ませてきた荒川洋治。その文章世界がこの一冊に凝縮している。
「いま本を読み、本について書く日本語の使い手の中で、間違いなく最高のひとり」(高橋源一郎)、「同時代に荒川洋治という書き手をもつのは、この上なく幸せなことなのだ」(池内紀)など評価はじつに高い。
困難な時代であればあるほど、文学の実力は認められる。「これまで「実学」と思われていたものが、実学として「あやしげな」ものになっていること、人間をくるわせるものになってきたことを思えば、文学の立場は見えてくるはずだ。」(本書「文学は実学である」より)。
初のベスト・エッセイ集。
目次
I(白い夜/春の声/慈愛の顔/友だちの声/小さな銀行/夜のある町で/風のたより/横光利一の村/仕合わせのタマゴ/晩秋/大きな小事典/おかのうえの波/夢のクーポン券/声/漱石の自己批評/一人/目にいれるよろこび/沈黙の恋/陽気な文章/心のなかの広場/編集者への「依頼状」)
II(会わないこと/いつまでも「いい詩集」/思想と眺望/ポロポロの人/たしか/会っていた/道/畑のことば/芥川龍之介の外出/秩父/忘れられる過去/コーヒーか干柿/クリームドーナツ/すきまのある家/歴史の文章/メール/文学は実学である/場所の歳月/鮮やかな家/話しながら/今日の一冊/途中)
III(秋/ぼくのめがね/軽井沢/青年の眠り/いま動いた/静かな人の夜/水曜日の戦い/ソラの丘/白い戦場/「銀の道」を行く/釘/ブラックバード/百円の名作/ハナミズキ/畳の上の恋/おくれる涙/行間はない/これから/短編のあらすじ/最後の文章)
IV(ここにあるもの/二人/黙読の山/美しい砂/第三の書評/チチチ/蛙のことば/散文/葛西善蔵と人びと/国際交流の流行/南方通信/読書/春とカバン/駅から歩く/一枚/近代の記憶/ことばの道しるべ/詩歌の全景/春の月/見るという舞台/加藤典洋さんの文章/柔らかな空間/紅い花)
あとがき
荒川洋治
現代詩作家。1949年4月18日、福井県三国町生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業。1980年より著作に専念。1996年より肩書を、現代詩作家(みずからの造語)とする。詩集に『水駅』(書紀書林・第26回H氏賞)、『あたらしいぞわたしは』(気争社)、『渡世』(筑摩書房・第28回高見順賞)、『空中の茱萸』(思潮社・第51回読売文学賞)、『心理』(みすず書房・第13回萩原朔太郎賞)、『北山十八間戸』(気争社・第8回鮎川信夫賞)、評論・エッセイ集に『忘れられる過去』(みすず書房・第20回講談社エッセイ賞)、『文芸時評という感想』(四月社・第5回小林秀雄賞)、『詩とことば』(岩波現代文庫)、『文学のことば』(岩波書店)、『過去をもつ人』(みすず書房・第70回毎日出版文化賞書評賞)など。2019年、恩賜賞・日本芸術院賞を受賞。日本芸術院会員。
四六判 352頁
みすず書房